本番に向けてたゆみないトレーニング
試験が終わった瞬間、思わず膝から崩れ落ちた――
浅野:出場するからには上位を目指したいと思い、毎朝、業務前に1時間ほどのトレーニングをしました。協力工場さんに頼みこんで不要になった国産の部品をいただいて、それをヘコませては叩いて直す練習を繰り返しました。
岡平:私は二次予選出場が決まってからは、休日に工場を使わせていただきトレーニング。塗装部門の二次予選および決勝は、国産車種のシルバーメタリックの車体が課題になることがあらかじめ判っていたので、シルバーメタリックの調色をおもに練習しました。普段、私たちが扱うのはメルセデス・ベンツ やBMWなどの輸入車ばかり。国産車両を塗装する機会はほとんどありませんから、感覚がともなうか不安がありました。国産車に乗っている先輩の車両を実際にお借りして、配色の傾向を探ったり、塗料の違いを研究したりしました。
岡井:浅野と岡平は同期で出身校も同じ。気心が知れたよき仲間であり、互いに刺激し合っているよきライバルでもあるようにみえます。二人とも根がまじめで賢く、つねに自分が何をしなければならないかを考え、行動しています。BPグランプリに向 けても、誰にいわれたわけでもなく自ら率先してトレーニングをするなど努力をして いたのには感心しましたね。
浅野:一次予選の実技試験は、BPグランプリ事務局から送られてきた課題のパネル(傷やヘコみがついたパネル)を修理して、事務局に送り返すというもの。実質、職場が試験会場であり、時間制限もありませんでしたから、「普段の業務の延長上」といった雰囲気で平常心で臨むことができたような気がします。
岡平:たしかに、一次予選はわりとすんなりだったような気がします。私にとって一番の難関は二次予選。会場は大阪にある専門学校だったのですが、その学校の生徒さんたちがたくさん見学に来るという情報を聞き、またBPセンター茨木/岡山から上 司や同僚も応援に来ていただけるということになり、生まれて経験したことのないほどの緊張が走りました。日頃の業務ではひとり黙々と作業することがほとんどですから、大勢の人の前で作業することに対してものすごいプレッシャーを感じました。
岡井:私も同じく二次予選の会場に足を踏み入れた時には、その緊張感に卒倒しそうでした。緊張しぎてコーヒーを口にすることさえできなかった。試験が終わった瞬間、ホッとして思わず膝から崩れ落ちたのを憶えています(笑)。
粉塵で車体を汚さない心配り、工具を整理整頓...
一つ一つの動作に表れていた礼儀や心遣い
岡平:決勝戦は2月16日(土)・17日(日)に行われました。全国10ブロックで開催された二次予選を勝ち抜いた30人が出場。1日目の午前中に学科試験があり、その後3グループに分けられて実技試験が行われました。会場となったインテックス大阪は 自動車補修ビジネス実演展示会も併催されていたこともあり、たくさんの来場者でごった返していました。コンテストの会場も二次予選とは比べ物にならない数の見物客が。しかし二次予選の時とは違って、なぜかその緊張感を楽しめる余裕がありました。
浅野:板金部門の競技内容は、国産車両の右フロントフェンダにある5~6cmの線傷と、1cm程度のヘコみを、車両装着状態で修理するというもの。制限時間は2時間でしたが1時間以内に終了。大会だからといって特別なことはせず、普段の業務の成果を発揮することだけを頭に置いて挑みました。
岡井:私もいつも業務で行っている作業をひとつずつ振り返りながら、ていねいに直していくことだけに専念しました。緊張していましたが普段通りの力は出し切れたつもりです。結果は2位。出場するからにはやはり優勝を目指していたので、正直残念ではあります。とはいえ、光栄な順位をいただけたのでうれしく思います。
浅野:私は残念ながら入賞を逃してしまいました。感想は、「悔しい!」のひとこと。 1位に輝いた方はベテランの方だったので、やはり経験の差を感じました。しかし自分の実力を認識できるいい機会になりました。この悔しさをバネに、もっと叩いて、 勉強します。
岡平:私は二人の戦いを観客席から見ていたわけですけれども、ボディに削った粉がかからないように気を配ったり、工具を整理整頓しながら清潔感のある作業を行ったりしているのは二人のほかにいませんでした。そういった細かなアクションは競技の点数対象にはならないことかもしれませんが、私は点数云々よりもそういった一つ一つの動作に表れる、オーナー様やお預かりした車に対する礼儀や心遣いのほうが大切なことだと思いますから。それが習慣づいている二人の作業を見てとても誇りに思いました。