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21 テュフ ラインランド ジャパン株式会社 クラッシックカーセンター編
テュフ ラインランド ジャパン 栗田 隆司 ヤナセオートシステムズ 片岡 浩一

ヤナセクラシックカーセンターがオープンしたのは2018年4月のこと。
1915年から輸入車販売を手掛けはじめ、これまでに100年以上もの歴史を有するヤナセの知識と経験を、クラシックカーライフをサポートするための部門として設立。クラシックカーを大切にし、後世まで乗り続ける。このような文化は、欧州では昔から根付いており、ヤナセクラシックカーセンターの姿勢を真摯に受け止めたテュフ ラインランド ジャパン株式会社(以下テュフ)は、作業内容や施設をはじめ細部まで監査し、クラシックカーの再生を手掛ける工場としてクラシックカーガレージ認証を与えた。
そこで今回はテュフの栗田隆司氏とクラシックカーセンターに在籍するYAS(ヤナセオートシステムズ)の片岡浩一氏に、日本においてのクラシックカーの現状、そしてテュフ認証を受けたヤナセクラシックカーセンターのこれからの話を伺う。

■2018年4月の設立から2年以上経ったヤナセクラシックカーセンターですが、それまでの生い立ちや、手掛ける作業内容、特徴などを教えてください。

ヤナセオートシステムズ 片岡 浩一
テュフ ラインランド ジャパン 栗田 隆司 ヤナセオートシステムズ 片岡 浩一
ヤナセオートシステムズ 片岡 浩一

片岡:ヤナセオートシステムズは大きく分けると、板金塗装を行っているBP部門、部品関係に携わるP&A部門、そしてもう一つ、横浜ニューデポーには、新車の納車前整備、中古車加修、エンジン・ミッションなどをリビルドしているサービス部門があります。この横浜ニューデポーのメカニック、設備など、メリットや特徴を活かす形で、クラシックカーセンターが誕生しました。
クラシックカーセンターのスタッフは40年近くメカニック一筋で経験を重ねてきた技術者が数名在籍しています。実はこのクラシックカーセンターが立つ場所は、元々メルセデス・ベンツを輸入していたウエスタン自動車があった場所であり、そこにいたメンバーが何人も残っており、私自身もその一人です。
幸いなことに50年前のモデルが新車で販売されていた時から携わっているメカニックが今は在籍していますが、近い将来彼らが引退して行くことを考えると、当時の車両を実際に触ることで蓄積してきた知識や技術を後世に継承して行かなければならない、その技術、知識をいつ役立てるのか、まさに現在いるメンバーたちの手で、その当時の車両を蘇らせて、この先もオーナーに喜んでいただくためには、今しかタイミングは無かったのです。
実際に60歳を超えているスタッフが何名もいます。弊社の定年は60歳ですが、それを迎えても自分たちは後輩たちに技術を伝えるために頑張りたい。さらに当時の新車当時を知らない後輩たちも、どうにか技術を習得したいという気持ちでした。そして、2018年4月にヤナセクラシックカーセンターが発足したのです。
現在のメカニックは、入社以来この横浜ニューデポーにいるメンバーのほかに、ヤナセの小売りのサービス工場から異動してきたメカニックが4名います。経験と知識のある先輩から指導を受けて、しっかりとした形で今後に継承していきたいという彼らも、ここで発足から2年以上実績を積んで、日々クラシックカーに触れています。
初めて発足した組織ですので、最初はどのように運営をして行こうか考えました。その一つの形として、初年度の6月に開所式を執り行い、メディアへのお披露目を行いました。紙媒体、ウェブ媒体、テレビなど多方面でヤナセクラシックカーセンターのことを紹介していただきました。その直後から新車販売のヤナセでクラシックカーを手掛けるのか、という大きな反響がありました。古くからのユーザーはもちろん、ヤナセブランドが長い歴史の上に成り立っていることは多くのクルマ好きが知ることであり、自分の愛車とするクラシックカーを、是非ヤナセクラシックカーセンターでメンテナンスして欲しいという声を多数いただきました。
実際に依頼を受けてクラシックカーの整備が始まったわけですが、レストアのような大掛かりな仕事に関しては、これまで2件ほど手掛けており、その合間にエンジン調整や、部分的な修理、整備の車両が随時入庫している状況です。
ヤナセクラシックカーセンターで車両をメンテナンスさせていただいたオーナー様には、とても喜んでいただき、賞賛のお便りなども届いています。クラシックカーセンターを立ち上げて本当に良かったと思っています。

■ヤナセブランドが長年培ってきた知識と経験そして技術力、それらを余すことなく活用できているのですね。新車販売だけでなく、クラシックカーも率先して手掛けるようになったことは、多くのオーナーが望んでいたことなのだと思います。

片岡:ここにいるメカニックは入社してから、基本的にはメーカーの教育を受けて育ちました。メーカーの教育というのは、正しい整備方法でありマニュアルに沿った作業手順、調整数値が基になります。そのメーカーの基準に習い、車両を整備してきました。
新車、あるいは現役で走り回っているような高年式のモデルは、定期点検や診断機を使用した整備になりますが、レストアやとても古いモデルとなると、なかなかマニュアル通りには進められなくなってきます。それはボディもエンジンにも言えることです。モデルそのもののマニュアルは長年保管してきているものがあるので、それを参考にできますが、パーツ供給の問題や車検制度をはじめ法律が変わってきたことなども問題となってきます。そこで新たなメンバー、つまり当時まだ入社しておらず、それらの経験がないメカニックは先輩メカニックからモデルの弱点や修理技術の手ほどきを受けるともに、保安基準や法律も勉強し直しています。

ヤナセオートシステムズ 片岡 浩一

■そのようにクラシックカーのメンテナンスをしっかりと行うという試みを、実際に手掛けているヤナセクラシックカーセンターですが、テュフ認証を受けるきっかけとなったのはどのようなことがあったのでしょうか。
例えば、片岡さんの話の中では、熟練工が下の代へと知識や経験を継承するというのは、ドイツのマイスター制度などにも通じるものだと思います。そのような点も含めて認証の際に参考としましたか?

テュフ ラインランドジャパン 栗田 隆司
テュフ ラインランドジャパン
クラシック レミュゼ デュッセルドルフ

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栗田:ヤナセクラシックカーセンターが設立する以前に、ヤナセのスタッフは数回ドイツに足を運び、メルセデス・ベンツをはじめ各メーカーのミュージアムや、アフターマーケットパーツのサプライヤー、板金工場、レストア工場などの視察を行ってきています。その際にタイミングよく私も同行させていただきました。思い返すと、すでにクラシックカーセンターの構想があったのかもしれません。
ヤナセクラシックカーセンターが受けたのは『クラシックカーガレージ認証』というもので、これはテュフ ラインランド ジャパンが提案し、ドイツ本社とともに立ち上げた世界初の認証です。というのも、もともとドイツにはクラシックカー協会というのが存在し、同じようにクラシックカーガレージの基準を作ろうと言う動きになっているのですが、それがなかなか進んでいないようなのです。そのような中、我々にアドバンテージがあったのは、4割程度が板金塗装工場認証の監査の内容が、クラシックカーガレージ認証に当てはまっているのです。それだけ自動車のフルレストアというものは板金塗装の割合が求められているということにもなります。そして残りの6割は、クラシックカーのレストアに関わる特化した内容となっています。
このBPセンター横浜は板金塗装工場の認証という下地があったため、比較的新規の認証を立ち上げやすく、それと並行してドイツの専門家の意見を受けながら作りました。
クラシックカーの世界は、30年前のレストアと現在のレストアでは、時代、環境、設備など多くのことが変化してきています。以前は自動車そのものの数が少なかったですし、オーナーは余裕があり、豊かな時間やコストを使い、お馴染みのショップに好きにやってくださいとお任せするようなスタイルでした。ただ自動車がどんどん増えてきて、ネオクラシック、ヤングタイマー、クラシックと年代が変わってきたときに、当然レストアの内容、種類も増えていったわけです。ヤナセが取り扱う自動車もヤングタイマーからクラシックに移ってゆき、そうなると多種多様な対応が必要であろうと。それらの背景を持つ中で、いったいクラシックカーガレージ認証は、どのような意味を持っているかというのが重要なのですが、それは旧来のタイプのショップに丸投げで任せるようなものではなく、時間も予算も区切りがあり、その中でオーナーとショップが何度も何度も相談のキャッチボールを繰り返してゆき、お客様のご満足をいただけるようなレストアを完結する。そのプロセスも含めて監査させていただきました。
そういった意味ではヤナセがこれまで幅広く取り扱われていたいわばクラシックになった車両の、レストアを手掛けるというヤナセクラシックカーセンターの方向性と一致したのだと思います。

■先ほどドイツへ視察に行かれたというお話が出ましたが、その中で参考にし、ヤナセクラシックカーセンターの運営に取り入れられていることなどはあるのでしょうか。

片岡:視察団は帰国後、幹部を交えて報告会を開くのですが、どのスタッフも、ドイツで行われているレストアというのは、目から鱗が落ちるような素晴らしい物だったと口々に話します。例えばそれまでメーカーのマニュアル通りに行う仕事とは、大分かけ離れた部分があると、そしてメッキやペイントなどの仕上がりに関しても、新車を超えるような綺麗な出来栄えだと感激して戻ってくるのです。特にメカニックスタッフに関しては車両の修理、レストアの世界観に関してはガラッと変わりました。
それらは、感性であったり、気持ちの問題だと思うのです。自分たちが行っていた作業と、本場ドイツで行われているレストアの現場を照らし合わせて、これまでやってきたこと、そしてこれからやるべきことが、はっきりわかったということが大きな収穫でしょう。
部品の調達に関しても付け加えますと、車両の修理にはメーカーから供給される純正部品を使用するのが基本です。しかしクラシックカーとなると、どうしても生産が終わっている部品が出てくるのです。欧州ではそういったクラシックの部品を専門的に扱っているところもあるのです。純正品ではないかもしれませんが、品質的には純正と同等のものです。日本で調達できないものを、何とか手に入れることで、レストアをすることができるという場合もあるのです。その視察も兼ねており、実際に今ではいくつかの優良な企業と提携を組み、部品の調達ができるルートも確保できました。

テュフ ラインランドジャパン
テュフ ラインランドジャパン
クラシック レミュゼ デュッセルドルフ

■テュフ認証的に、ヤナセクラシックカーセンターでポイントとなっているのはどのような所でしょうか。

テュフ ラインランドジャパン 栗田 隆司
テュフ ラインランドジャパン 栗田 隆司 ヤナセオートシステムズ 片岡 浩一

栗田:我々の監査内容は、板金塗装工場以外で言うと、クラシックカーガレージの場合は『定義』と『範囲』というものを決めなければなりませんでした。それはどのような車種であっても何でもできますという認証の出し方をしていないのです。例えばヤナセクラシックカーセンターの場合は、ヤナセで販売してきた何年から何年の、どこのブランドの、なんというモデルかという限定をさせていただいております。
その理由としては、何でもできますということは、どれひとつとして正確にできませんということの裏返しにもなりかねないので、一番専門性があって、自分たちがきっちりできる範囲を定めてもらったのです。そしてその定義の範囲内において、部品調達が円滑に行えるかどうかや、修理情報やマニュアル類の配備が十分であるかなどということを見させていただいています。
あとは作業環境であることや作業品質というところではサービス、セールスという項目があるのですが、クラシックカーガレージ認証はユニークなのですが、例えば概算見積りというものがあって、塗装剥離したところあまりにもパテの痕が多く見つかりましたといった際に、それをどう直してゆくかというのは、剥離しないことにはわからなかったので、一般的な板金整備のように、一度お預かりして一回見積りを出したからそれですべて直せるということにはなかなかならないのです。ある程度作業を進めてゆくうちに、色々と見つかってくる部分があり、それを元にオーナーが求めるものや予算などを相談し進行するわけですが、そのプロセスがしっかりと行えているかということも監査の対象としています。それが一般的な板金整備との大きな違いです。

■そうなるとかなり敷居は高くなると思いますが、だからこそクラシックカーガレージ認証を受けている工場でレストアを行うというメリットは、ユーザー側も多大に得ることができるのですね。
車種や年代はどのような範囲になっているのでしょうか。

片岡:かなり多くの車種で認証を受けていますが、50年代前半からあり、現在はメルセデス・ベンツでは52年から87年の間で20車種、フォルクスワーゲンでは53年から92年19車種、アウディは67年から92年の6車種となっています。

ヤナセオートシステムズ 片岡 浩一 テュフ ラインランドジャパン 栗田 隆司
ヤナセオートシステムズ 片岡 浩一 テュフ ラインランドジャパン 栗田 隆司

栗田:この車種ですが、1回目の監査から2回目の監査の間で、ずいぶん増やされているのです。つまりいきなり全部できるというわけではなく、ここからここまでは確実にレストアできるようにしようと決め、それに合わせた環境、つまりマニュアルや部品調達ルートなど整えて認証を受け、それを繰り返してしっかりと手掛けられる車種を、継続の監査の際に増やしてゆくというスタイルとなっています。

■工場の稼働率は現在どのようなものですか。

片岡:どちらかというとお客様に待っていただいている状況です。一度宣伝活動を行うと、その反響が大きいため、やや広告宣伝を控えめに行うなどの調整をしながら進めています。時間がかかる案件もあるので、それらを調整しつつオーダーの受け付けを行っています。
作業を行うのはもちろんメカニックスタッフなのですが、メンバーの全体のスキルが向上してきていることもあり、最近は以前の工場回転具合とは変わってきていると感じています。
そして新規のお客様が多いのですが、一台仕上げると、その後のメンテナンスで入庫されるという作業も増えてきます。つまり一度手掛けたクラシックカーのオーナー様とは長い付き合いになるのです。
これからはテュフ認証を受けた工場でレストアしたという適合証明書の発行も行っていきます。その個体がしっかりと整備されたものだという証になるのです。そうなると、お客様の喜びも倍になるのではないでしょうか。

ヤナセオートシステムズ 片岡 浩一 テュフ ラインランドジャパン 栗田 隆司
適合証明書

栗田:そもそもテュフ認証は、この工場、設備に対するものなのですが、その工場でフルレストアされた個体に対して発行する適合証明書となります。
どのようなものかというと、お客様の要望に対し、きちんとレストアされましたという証明になるのです。
このように、レストアへと真摯に向き合われている姿勢や高い技術、そしてお客様のことをしっかりと考えたフローなど、様々な視点から監査させていただき、ヤナセクラシックカーセンターはテュフ認証に相応しい工場と言えるのです。

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